先日、ストーンズの日本公演に関して、記事を書きました。
http://ameblo.jp/goatsheadsoup/entry-10011143476.html

 論旨は、空席が多かったストーンズのジャパン・ツアーは、およそ成功とは言えないのではないか、というものです。要因の第一として、私は高額のチケット料金をあげています。

 なぜチケット料金が高騰したのか、私はあれこれ憶測で書いたのですが、このことに関して、ちゃんとした裏づけを元に分析している方がいらっしゃるんですね。

http://www.stonescollectors.com/blog/2006/04/10_0018.php

 この記事、本文もさながら、つけられたコメントも熱いです。大規模なコンサートには、さまざまな問題がついて回るものなんだ、ということを知る意味でも、貴重な記事だと思います。
stones4 ローリング・ストーンズは、4月5日の名古屋ドーム公演を最後に、日本を発った。

 じつは、3月24日の東京ドーム公演を見たときから、思っていたのだ。でも、ストーンズが日本にいるうちは言いたくなかった。

 今回の彼らの日本公演は、失敗だったのではないか。

 いや、ストーンズのコンサートは、私は一度きりしか見てないけれど、素晴らしかった。そこにウソはない。前回「リックス・ツアー」よりも、バンドは充実している。それは間違いないのだ。

 私が述べたいのは、あくまでビジネスとしての「失敗」である。

 ストーンズの東京ドーム公演2デイズは、私が見た24日の公演をふくめ、満員ではなかった。1割ぐらい空席だった。

 原因はすぐに思い当たる。S席1万8千円という高額のチケット。くわえて、水曜・金曜というウィークデイの公演。公演日が土日だったなら、だいぶちがっただろうと思う。

 作家・山川健一氏のライヴ・レポートによれば、札幌公演はS席をタダで配っていたというし、追加公演となったさいたまアリーナは、空席がひどく目立ったそうだ。
 とくに、さいたま公演はテレビ中継が入っていたから、ストーンズとしても、忸怩たるものがあったのではないか。

 今回のプロモーター・JECインターナショナルの段取りの悪さは、あちこちで指摘されてるようだ。たぶんそれも、要因のひとつとして、あるんだと思う。

 でも、やっぱりいちばん悪いのは、ストーンズ自身じゃないかな、と思うのだ。
 なにが悪いかといえば、やはり、チケット料金が高すぎるのである。

 ストーンズのコンサートが高いのは当たり前だ、という意見もあるだろう。なにしろあのローリング・ストーンズである。そんじょそこらの外タレとは格が違うのだ。高い料金とってしかるべきだ。それは正しい意見だと私も思う。

 でも、今回のチケット料金は異常だった。

 さいたまアリーナ公演は、ドーム2デイズが発売になった後に、追加公演として売り出された。チケット料金は以下のとおりである。
 S席¥35,000 A席¥28,000 B席¥18,000 ゴールデンサークル席¥65,000
 ちょっとマトモじゃない、と思わないか。

 貧乏自慢するわけじゃないんだが、ドーム公演を観た後、私はさいたまアリーナ公演に行くべきか否か、真剣に悩んだのである。でも、行けなかった。悔しいけど、おこづかいがもうなかったんだよ。ドームで使い果たしてしまっていたのだ。

 たぶん、私と同じ境遇にあった人は多かったのではないかと思う。それがさいたまアリーナの空席に直結していたのだ。
 かりにこれが、前回リックス・ツアーと同じ、S席1万3千円だったならどうだろう? 私は喜んでアリーナに馳せ参じたはずだ。ストーンズに集客力がないわけじゃない。ストーンズ・ファンはお金持ちばかりじゃない、というだけの話なのである。

 チケット料金の高騰を招いたのは、ステージ・セットの巨大さである。機材総重量262トン、貨物専用ジャンボ機3機のすさまじいステージ・セットは、たしかに、今回のツアーの目玉だった。新聞をはじめ多くのメディアが、このセットの巨大さを、驚きとともに報じている。中部国際空港なんか、こんな大荷物を扱ったのははじめてだったそうだ。

 セットに凝ることに文句を言いたいわけじゃない。ストーンズはこれまでも、ツアーを行うたびにセットをバージョンアップさせてきたのだ。
 これはほかでもない、ストーンズの偉大な点のひとつである。彼らは、現状に甘んじることを潔しとしないのだ。
 今よりももっといいライヴをやろう、もっとお客に楽しんでもらおう、と考えるからこそ、ステージ・セットが巨大化するのである。あの壮大なステージ・セットは、彼らの旺盛な向上心の発露であり、大切な表現の一環なのだ。

 だが、今回の日本公演は、それが裏目に出てしまったのではないか。セットを豪華にするのはけっこうだが、それがチケット料金に上乗せされて、客が減ったのでは本末転倒である。
 収支決算すれば黒字になるからいい、という考え方もあるかもしれないが、彼らはビジネスマンである以前にパフォーマーなのだから、会場に空席があるのは決して気分のいいものではないはずだ。

 巷間では今回のツアーはラスト・ツアーだと噂されているけれど(毎回出る噂だけどね)、私が見たかぎりでは、ストーンズはまだまだやれるし、ツアーもまだやるんじゃないかな、と思えた。
 再来日の話が出たとき、今回の空席が、マイナスに作用しないことを祈るばかりだ。料金がもうすこし安ければ、客はもっと入ったはずなのだから。

 ストーンズの悪口なんていいたくないよ、ファンなんだもの。
 でも、メディアは大絶賛だし、暖かいファンに囲まれているストーンズだから、こういうことはちゃんと言っておきたかった。
 ロックの王様は、裸の王様であってはならない。


 小沢一郎が民主党代表に就任した。

 素直に、喜びたいと思う。私は小沢一郎が好きなのである。

 とはいえ、誤解を招かぬように言っておきたいが、私は彼の政治理念にかならずしも共鳴しているわけではない。
 彼の著書『日本改造計画』は政治家の著した本の中ではまちがいなく名著だと思うし、論旨も納得できることが多いけれど、すべて同意できるわけではない。
 たとえば、「天皇を国家元首にしよう」なんて、仮にそれが小沢の言うとおり、世界の国々では常識となっている作法だとしても(イギリス王室は国家元首である)、賛同する気にはとうてい、なれない。

 また、私はこの人が、「クリーンな」政治家であるとも思っていない。世田谷にある小沢一郎邸は5億だとか聞いた。国会議員の給料でそんな豪邸、建つわけがないだろう?
 自民党の経世会で竹下登・金丸信と一緒にブイブイ言わせていたころ、小沢は相当にきたねえカネを受け取っていたにちがいないのだ。叩けば、ホコリはいくらでも出てくると思う(叩かれても出ないようになっているとは思うが)。

 だいいち、あいつのツラは悪人ヅラじゃないか。ヒューザーの小嶋社長には負けるけど、あれは相当、あくどいことをやった人間のツラだよ。

 でも、好きなのである。応援してますよ、私は。

 理由はいろいろあるけど、やっぱり、あの宮沢内閣不信任案可決から、自民党離党、細川連立政権成立までのドラマチックな政治劇の立役者だった、というのが大きいのだと思う。あのときの小沢の行動は、民主主義が本来持っているはずのダイナミズムを実感させてくれるものだった。しかも、小沢は当時、自民党の中枢にいて、そのまま党にとどまっていればぬくぬくできたにもかかわらず、あえてそれをやったのだ。
 経世会の内紛があったこととか、利害関係を考慮に入れても、あのときの小沢の行動は称賛に値すると思う。小沢はまちがいなく、日本一行動力のある政治家である。

 政治は選挙でつくられ、国民が動かすものである。社会科の授業ではそう習うけどさ、55年体制、もっと言えば自民党一党独裁の下では、そんなもん経験することができなかったじゃないか。そして今、日本はふたたび55年体制に戻りつつある。

 支持政党をハッキリと表明するなんて公明党の支持者ぐらいで、あんまり見かけないけど、私は以前から、自分は民主党支持だと公言している。
(支持政党を言うのを憚る国民なんて、日本国民だけだってことを、みんなもっと知った方がいいと思う)

 民主党にまともに政権が担えるのか、と問われると窮する部分もあるし(あのメール問題の情けなさ!)、公平に見積もって、自民党の方が豊かな人材を持っている、とも思う。

 でもね、民主主義をまともに機能させるためには、政権交代が必要なんだ。万年与党&万年野党の二大政党制なんて、まともな国家のシステムじゃない。北朝鮮と大して変わらないよ。独裁者が政治家の後ろに隠れているぶんだけ厄介だ。日本のキム・ジョンイルは、霞ヶ関にいる匿名のエリート集団なんだから。

 そして、小沢がくりかえし述べるとおり、自民党には真の意味で「構造改革」なんてできっこないことも事実だと思う。4~5年野に下って、返り咲けば別だけど、匿名エリート集団におんぶにだっこ、がっちり結びついて権力を維持している今の自民党には、絶対にムリだ。まさに「構造的」に、不可能なのだ。

 日本には、政権交代が必要だ。それができるのは、民主党しかない。
 そして、政権交代を為し得る民主党党首は、民主党で唯一、権力を思う存分行使した経験のある政治家・小沢一郎しかいない。

 よお小沢、おまえ今日、政治生命かけるって言ったな。
 その言葉にウソはないと信じてるぜ。
sticky 名盤紹介ブログ、更新しました。
 ストーンズ来日記念、1971年の名作『スティッキー・フィンガーズ』です。

http://musikus.blogspot.com/

 好きなものについて書くからこそ、リキ入れないと書けないんだよなあ。

 名盤紹介は本業に差し障りのない範囲で、ぼちぼちと、死ぬまで続けようと思いました。
rockin 雑誌「ロッキング・オン」を購入した。
 じつは、私はこの雑誌の定価が280円だったころから定期的に購読しているベテラン読者なのである。

 もっとも、だからといって決して熱心な読者だというわけではなく、最近は発売日に雑誌を購入するのはまれで、新しい号が出ていたら買う、という程度である。中身も流し読みだから、ほとんど記憶に残ってはいなくて、間違ってすでに購入済みの号を買ってしまったこともある。
 まあ、同じ号を二冊買う読者なんかそうそういないだろうから、それはそれで「熱心な読者」と言ってもいいのかな。

 今月号は11曲入りのCDつき。いったい発行部数がどのくらいなのかわからないが、音楽CDつきで680円という値段は良心的だと思う。勉強してますな!

 一応、CDがついているときは通して聞いてみるのだが、残念なことにここに収録されている楽曲やアーティストに、大きな興味を抱いたことはない。
 ……てゆっか、80年代リバイバルって、なんとかなんないのかよ。俺は80年代サウンドが大っキライなんだよ!


 なんでも、来月号から編集長とデザイナーが変わるらしい。洋楽不況の中、苦しいとは思うんだけど、頑張って欲しいと思う。
 ここ数年、ライターの質が落ちているような気がするので、そこはなんとかして欲しいなあ。ただ、残念なことに、新編集長に就任する人のテキストって、俺、感心した記憶ないんだよな……。

 今月号の巻頭特集はストーンズ。表紙の写真は私が見た3月24日東京ドームの写真ではないかな。すくなくとも衣装は同じだ。

 キース・リチャーズの発言が印象的だった。

『ア・ビガー・バン』収録のブルース「バック・オブ・マイ・ハンド」についてのコメント。
「この曲はオリジナルだが、ルーツがちゃんとあるものなのさ。亡霊たちがよみがえってくるのがわかるんだ。マディ・ウォーターズやリトル・ウォルターが同じ部屋にいるのを感じるんだよ。友達に囲まれながらプレイしている感じだった」

 亡霊がよみがえる。示唆に富む発言だった。
stones31,カネ儲けの構図

 3月24日、東京ドーム。ローリング・ストーンズのコンサートを観に行く。
 同行者は葉山のロックンロール夫婦、mixiネーム・シャランラ氏とその奥方である。

 すでにあっちこっちで書いたり言ったりしてるのであるが、今回のストーンズの来日公演は、チケットがバカ高い。なにしろ1万8千円である。
 シャランラ氏などは、1塁側のスタンドにある自分の席を確認したとたん、「なんだよこれ! これで1万8千円かよ! ぼったくりだよ!」と絶叫していた。
 実際、ステージ上の人なんか、米粒みたいにしか見えないのである。豪華な食事のついたディナー・ショーならともかく、スタジアムでのロック・コンサートでこの値段は、「ぼったくり」と言って差し支えない、と私も思う。

 会場には「MSN」のロゴの入った飛行船が二台、プカプカ浮かんでいる。言わずと知れたMicro$oftである。
 世界一ゼニを稼ぐことで知られる企業が、世界一ゼニを稼ぐことで知られるロック・バンドと結託して、人々からさらに多くのゼニを搾り取ろうとしているわけだ。
 一応、納得ずくで支払った1万8千円なのであるが、この図はさすがにゲンナリした。

 ストーンズは現在、世界でもっともカネを稼ぐバンドである。昨年の全米興行収入第一位は、ストーンズだったのだ。二位のU2をはるかに上回るぶっちぎりの一位だそうで、彼らはたぶん、日本でもしこたま儲けるのだろう。
 ショーの終了後、この日のライヴでストーンズが稼いだ売上を、シャランラ氏と試算してみたら、ウン億円はくだらなかった。たった二時間のコンサートでウン億円である。いったい、メンバーひとりあたりの時給はいくらになるのだろう。

 ただね、これは誤解を招きやすいところだから、ハッキリ言っておきたい。
 ストーンズが凄いところは、いまだにゼニをたんまり儲けてるってところなんだよ。40年以上儲け続けるなんて偉業を達成したロックンロール・バンドは、ストーンズをおいて他にはないのだ。

 ロックでカネを儲けるってのは、言うほど簡単なこっちゃないのだ。
 ロックでカネを儲けるためには、みんなに愛されなければならない。1万8千円払って東京ドームのスタンド席に座り、米粒大のミックを観て大喜びする輩を大量発生させなければならないのだ。しかも、ストーンズは一時的にではなく、40年間それを続けているのである。
 いったいどうすればそんなことができるのか、私にはサッパリわからない。

 人に愛されることの難しさは、おそらく誰もが知っているだろう。ひとりに愛されることだって難しいのである。それを40年持続させるのは、なおさら難しい。

 ストーンズは、それを何億人単位で軽~くやってのけてるわけだ。それって、すげえことだと思わないか。
 隣人に愛されるのと、アーティストとしてファンに愛されるのはちがう、という意見もあるかもしれない。だが、よーく考えてみなさい。そこにはまったく同じ構造のギヴ&テイクの関係が現れるはずだよ。


2,ステージと前座

 今回、ストーンズのチケット代金がバカみたいに高くなってしまったのは、ステージ・セットがとにかくムチャ豪華だからだ、とは聞いていた。なんでも、ステージ上に高層ビルディングをおっ建てるのだそうで。

 で、その高層ビルディングを目の当たりにすることになったんだけど、残念ながら高層ビルにはどうしたって見えなかった。
 公演中はこいつが七色に光ってたいそう綺麗だったが、すくなくとも開演前には、このセットにそれほどカネがかかるとは思えなかった。高層ビル、というよりは、5階建て公団アパートに近いシロモノなのである。
 冷静に考えれば、ステージ上に公団アパートを建てるのも凄いことなのだが、あらかじめ「凄いセットだ」と聞いていたから、それほど大したもんには見えなかったのだ。
アメリカでのコンサートの写真を見ると、たしかにこれは高層ビルなんだ、と納得できる。公団アパートにしか見えないのは、おそらくドームという密閉された空間のせいだろう。)


 このステージ上の公団アパートの中には、「ゴールデンサークル席」と言われる客席がある。チケット料金5万5千円のVIP席で、発売後たちまち完売したそうだが、果たして、ここに設けられた席に5万5千円の価値があるのかどうかは、最後まで疑問だった。上からステージを見下ろす格好になるので、普段とはちがったアングルでステージを眺めることはできるけれど、それだけなのだ。メンバーの動きが俯瞰できることと、メンバーの薄くなった頭をじっくりと眺められる以外に、さしたるメリットがあるとも思えない。要は、電飾の中に座席があるわけで、電飾の美しさは一切、見られないわけだしね。
 実際にゴールデンサークル席に座った人に聞いたわけじゃないからわからないけど、これも相当にぼったくり臭い趣向だなあ、というのが正直な感想である。
 もっとも、一回のコンサートに5万5千円払うほどストーンズ愛の強い人なら、口が裂けても「ぼったくり」とは言わないだろうけどね。
(ちなみに、チケット予約時には、私とシャランラ氏はこの席をとるべきか否か、真剣に協議したのである。この席は即座に完売になったから買えなかったのだけど、余っていたら買っていたかもしれぬ。恐ろしい)


 22日に最初のドーム公演があって、その公演のレポートをネットで見たりしていたから、今回、前座がいるのは知っていた。これはジャパン・ツアーでははじめてのことである。

 ストーンズの前座は、若手バンドの登竜門として知られている。新人にとっては、前座に選ばれるだけで相当の栄誉なのだ。ここからビッグになったアーティストも多い。
 有名なところでは、プリンスやZZトップがストーンズの前座出身だし、最近ではジェットやストロークスなんかもやっていたらしい。

 で、われらが日本公演の前座は、リッチー・コッツェンというギタリストが率いる、3ピース・バンドであった。聞くところによれば、コッツェンさんは、ミスター・ビッグのメンバーだった人だそうである。

 前座ってのはつらいもんだね。あれだけ凄い電飾があるのに、しょぼい照明で演奏しなければならない。だが、あのプリンスだって、ここから這い上がっていったのだ。

 正直、コッツェンさんの演奏は、とてもほめられたもんじゃなかった。シャランラ氏などは、あからさまに不機嫌になって、「さっさとひっこめ!」とのたまっている。私も大いに同感だったけどね。途中で席を立ってタバコ喫ってたし。

 コッツェン君、これを見ていたら大いに反省してくれたまえ。ギターってのはね、指が動きゃいいってもんじゃないんだよ。
 ストーンズの前座なんだから、ストーンズ・ファンに受けそうな音楽をやった方が良かったんじゃないの。あなたのテクなら、それも可能だったはずだ。
 アーティスト・エゴを満足させることも大切だが、まずはみんなに愛されないことにははじまらない。せっかくストーンズの前座に選出されて、満員の東京ドームで演奏するというチャンスをもらったんだから、そのチャンスは絶対に逃しちゃいけない。あの場は、あざといぐらいで丁度いいんだよ。


3,コンサート実況

 ストーンズは8時すぎに登場、きっかり2時間演奏してステージを終えた。

 結論からいうと、すごくいいライヴだったと思う。前回の「リックス・ツアー」のときも、私はシャランラ氏と一緒に東京ドームでストーンズを観ているのだけど、そのときよりずっと良かった。たぶん、バンドの調子がいいのだと思う。

 ストーンズはもはや、誰もけなせない存在になっているから、メディアの批評は眉にツバして見なければならないのだが、新作『ア・ビガー・バン』は久々に、メディアの美辞麗句がお世辞にならない、素晴らしい作品だったと思う。たぶん、過去20年ぐらいのストーンズのアルバムの中で、いちばんいいだろう。
 発売日にシャランラ氏が「すげえいいよ!!」と電話をくれたぐらいだからね。私も大いに気に入って、ここにレビューを書いたりしている。
 アメリカのロック専門誌「ローリング・ストーン」も2005年年間ベストアルバムの2位に選出した。じつに評価の高い作品なのだ。

 そういう作品のプロモーション・ツアーなのだから、懐メロ・ツアーだった前回とは、意気込みがちがうだろう、とは思っていた。

 で、ちがってたよ実際。ストーンズは、以前よりぜんぜん良かった。
 ショーが終わって帰宅した後、さいたまスーパーアリーナの追加公演に行くべきか否か、真剣に考えちゃったからね。さすがにもう財布が心もとなくなっているので、たぶん行かないとは思うのだけど、まだ心のどこかにあきらめてないところがある。ひょっとしたら、行くかもしれない。
 そう思わせられたのは、ひとえにこの日のショーが素晴らしかったからだ。

 いい時代になったもんで、ショーが終わったその日に、オフィシャル・サイトにセットリストが掲載されている。以下、セットリストを元に、簡単な実況をしてみよう。


 The Rolling Stones 03/24/06 Tokyo Dome, Tokyo

1. Start Me Up
 ステージ上の公団アパートの真ん中のどでかいスクリーンに、ビッグ・バンを描いた映像が映し出される。ア・ビガー・バンだと言いたいのだろう。ひょっとしたら、アルバム・タイトルは、この映像の準備ができた時点で決まったのかもしれない。アルバム・リリースと同時にツアーがはじまったんだから、十分考えられることだと思う。
 その映像が終わったところで、問答無用のStart Me Upのイントロが鳴り響くゴージャスな演出。会場も怒号のごとき歓声である。
 ここで22日とはセットリストがちがうことを宣言していたわけで、22日も来た人は、喜びもひとしおだったことだろう。
 シャランラ氏は「うおっ、ミックもキースもカッコいい!」とつぶやいていた。これはむろん、当人たちがカッコいいということなんだけど、多分に衣装にたいする賛辞もふくまれている。ミックもキースもシンプルなジャケット姿で(ミックのジャケットは金色だけどね!)、以前のツアーの過剰な衣装(シャランラ氏いわく、「成金のネグリジェ姿」)よりずっと良かった。ひいき目抜きで、前回のツアーより若く見えたよ。

2. It's Only Rock And Roll
 キースがチャック・ベリーふうのお得意のフレーズをビシビシ決める。このあたりで、「あれ? ストーンズは前回よりだいぶノッてるんじゃないか?」と思いはじめた。すくなくとも、キースはこんなにノッてなかったぜ、前回は。

3. Oh No Not You Again
「ツギハ、シンキョク、デス」
 というミックのつたない日本語MCではじまったナンバー。さすがシンキョクだけあって、ちょっとグダグダな演奏だった。新作にはもっとラクに演奏できる曲もあるのに、あえてこれをやるってのは、これを聴いて欲しいってことなんだろうなあ。

4. Bitch 
 嬉しいセレクションのひとつ。たぶんナマで聴いたのははじめてだろう。ただ、残念ながら東京ドーム、音、悪すぎ。
 ギター・リフとシャープなホーンがからむのがウリの曲なのに、音が団子になっちゃってなんだかよくわからない。こないだJBを観た国際フォーラムなら、こんなことは絶対にないのになあ。

5. Tumblin' Dice
 いつどこで聴いてもいい曲だよ、この曲は。

6. Worried About You
 今回もっとも嬉しかった曲。個人的には、ハイライトはここだった。
 ステージ前方にオルガンが設置されて、ミックがイントロを弾きはじめたのだが、当初、何をやるのかまったくわからなかった。この曲だ、とわかったときの驚きと喜びはとうてい一言では述べられません。
 ミックは70年代中盤からおかしなファルセットで歌うようになっていて、「愚か者の涙」や「エモーショナル・レスキュー」が有名だが、この曲もその変態ファルセット曲のひとつ。『刺青の男』収録のナンバーである。たぶん、変態ファルセット曲ではいちばん好きな曲だろう。
 ミックが裏声で「ベイベェ~!」と絶叫したときは、鳥肌が立ちました。

7. Ain't Too Proud To Beg
『イッツ・オンリー・ロックンロール』所収のテンプテーションズのカヴァー。通好みなセレクションだ。他人の曲だと気分もちがうんだろう。バンドはとても楽しそうに演奏していた。

8. Midnight Rambler
 ああ、こりゃやっぱ調子いいんだ、と確信した。
 ブギーからスローなブルースに転調、ふたたびブギーに戻る壮大なロック叙事詩の曲なんだけど、最初のブギーがいつまで経っても終わらないんだもん。
 バンドはスロー・ブルースに移行するため、いったん演奏をやめかけたのだけど、キースがしつこく例のリフを弾き続けて、バンドもそれにひきづられていた。要は、ノリすぎちゃってやめられなかったんだよね。
 ミックがキースを見て苦笑して、なにごとかつぶやいたのを、私は見逃さなかったよ。たぶん、「いつまでやるんだよ!」とか、そんなことを言ったんだろう。苦笑ではあるけれど、嬉しそうだった。バンドがノッていて、フロントマンが嬉しくないはずはない。
 チャーリーのドラムも凄かった。おいチャーリー、一昨年にガンの手術して、病み上がりじゃなかったのかよ。

9. Gimmie Shelter
 女性シンガーのリサ・フィッシャーとミックのデュエット。リサちゃんたら、見るたびに太っているけど、この曲の歌唱は本当に大したもんだった。伊達に贅肉つけてないよ。ミック完全に負けてたもんな。
 リサに続けてバンド・メンバーの紹介に入る。サックス奏者ボビー・キーズにたいする声援がひときわ大きいのも、この場にいる客がどんな客なのかを如実に物語っていた。

10. This Place Is Empty
11. Happy

ミック・ジャガーが退場、お色直し。キースのボーカル・ナンバー2曲。This Place Is Emptyは新作に入っているしんみりしたバラードだ。シャランラ氏が「キース、ボブ・ディランみてえだな」と言っていたのが印象的だった。

12. Miss You
アリーナの真ん中にあるセカンド・ステージに移動して数曲を演奏する構成は、前々回の「ブリッジス・トゥ・バビロン・ツアー」から取り入れられた趣向だった。当時は、ツアータイトルどおり、コンサート会場に橋(ブリッジ)をかける、というのがウリだったのである。
 以前はその橋の上をセカンド・ステージまでメンバーがぞろぞろ歩いていたのだが、なんと今回は、演奏中のメンバーを乗っけたまま、ステージが動き出してアリーナ中央に移動、セカンド・ステージが展開されるという物凄い仕掛け。ストーンズが巨大なベルトコンベアに乗ってるわけである。こりゃカネかかるわ。

13. Rough Justice
14. You Got Me Rocking

セカンド・ステージの下にいた連中が心の底からうらやましかった。だってさ、やつらが支払ったカネは、俺たちと同じ1万8千円なんだぜ? なのにやつらはミックのツバが飛んでくるライヴハウス状態を体験できている。くそー、いいなあ。
 Rough Justiceは新曲なのだが、先に演奏されたOh No Not You Againよりずっとこなれていた。何十年も演奏している他の曲と比べても遜色なかったと思う。たぶん、今後もやり続けるんじゃないかね、この曲は。


15. Honky Tonk Women
 ふたたび移動しながらの演奏。移動中、ファースト・ステージ後方から花柄の巨大なベロが出現する。

16. Sympathy For The Devil
 ミックが公団アパート、じゃなかった高層ビルの中央、スクリーンの真ん前に登場し、背景のスクリーンでサイケなライト・ショーが演じられる。たぶん、ストーンズ側が考えるショーのハイライトは、前曲の花柄巨大ベロとこの曲なんだろう。
 もっとも、すでに述べたとおり、私みたいなスレたファンはそんなギミックより、通好みな曲をふつうに演奏してくれた方がハイライトになるんだけどね。1万8千円払って東京ドームに馳せ参じる連中ってのは、たいがいそうなんじゃないのか。
 でもね、そこでそういう「スレたファン」に合わせたら負けなんだよ。そう思った。

17. Jumpin' Jack Flash
18. Brown Sugar

 まあ、これで盛り上がらないはずはない。怒濤のロックンロール攻撃である。
 62歳のミック・ジャガーは、広いステージを歌いながら端から端まで走っていたぜ。
「俺、あのステージ1回走っただけで息切れるよ」
 とはシャランラ氏の言葉だが、私も同様である。

19. You Can't Always Get What You Want
20. Satisfaction

 ここからアンコールである。
「You Can't~」は以前のツアーとアレンジが変わっていた。おそらくは何千回も演奏しただろう曲のアレンジを今でも変えているストーンズは、本当に偉いと思った。
 平均年齢60歳以上で、まだバンドが進化し成長しているって、とんでもないことだよ。


4,満足できない男

 やっぱり、好きだからやってるんだろうなあ、とは思った。
 カネもうなるほど持ってる、地位も名声もある、誰も手にすることができない成功をすべて手に入れた62歳のミック・ジャガーが、今なおステージに立ち続ける理由は「好き」以外には考えられない。たんまり儲けることまでふくめて、好きなのだと思う。
 でも、「好き」だけでは説明できないことも、あるのだ。

 演奏することを好きな人はたくさんいる。62歳のプレイヤーだって珍しくないだろう。彼らだって、「好き」にはちがいない。
 だが、ミック・ジャガーのあの体型は、単に「好き」だけでは維持できないのだ。あの体型を維持させているのは、おそらくは修道士のように禁欲的な節制と、日々の地道な鍛錬である。血のにじむような努力、と言いかえてもいい。

「ミックってさ、『アイ・キャント・ゲット・ノー・サティスファクション』って歌ってるけど、あんなに成功してる人はいないよね。あれで満足できなかったら、誰も満足できないよねえ」
 終演後、私とシャランラ夫妻は恒例の反省会でそう語ったが、やっぱり、彼は満足してないんだと思う。それがどんなものかはわからないが、強迫観念みたいものがあって、彼は「満足する」ことができない性質なのだ。そういう病気だ、と言ってもいいかもしれない。

 彼を満足させないものと、世に「才能」と呼ばれているものは、たぶん、同じものだろう。
 そして、1万8千円支払って米粒大のミックをひと目見ようとする連中が後を絶たないのも、おそらくは彼がいまだに「満足してない」からなのだ。

 気合いの入った新作を出して、バンドとしていまだに成長しているストーンズと、「満足してない」ミック・ジャガーのことを考えていたら、無性に追加公演に行きたくなってしまった。




追記・4月11日

「ゴールデンサークル席」はアリーナの前のほうの「いい席」であるというご指摘を受けました。ただ、その一方で、ステージ上のマンションの1、2階がVIP席であるとの記事もあり、「ゴールデンサークル席」の詳細は依然として不明です。
kindaichi これまで、このブログでは、私の仕事についてはほとんどふれずに来ました。むろん理由あってふれずにいたのですが、考えが変わって参りました。

 せっかくだから宣伝しようじゃないの、という気になってきたのです。

      *

 去る3月17日、『金田一少年の全事件簿』がリリースされました。企画/編集/執筆のすべてを私が担当した本です。
 当初は、執筆は誰かに手伝ってもらうつもりだったのですが、適当な人が見つからなくて、それを探すヒマがあったら自分で書いた方がぜんぜん早い、という理由から(自分で言うのも難ですが、私は書くのが相当に速いのです)、結局ひとりで全部書いてしまいました。
 おかげで1月・2月は休日がありませんでしたけど、好きな作品ですし、楽しんでつくることができました。


『金田一少年の事件簿』は、マンガ界に「ミステリー・コミック」という新たなジャンルを築いたマンガの金字塔です。
 90年代後半に記録的な大ブームを迎え、「週刊少年マガジン」が「ジャンプ」を抜いて少年誌ナンバー・ワンの地位を奪還する大きな原動力となりました。
 残念ながら、「マガジン」はその後「ジャンプ」にふたたび抜かれてしまいましたが、おそらくはそのせいもあるのでしょう、昨年、「シリーズ連載」という形ではありますが、復活新連載がはじまりました。今年4月から新シリーズが開始されるそうです。

 本書は、タイトルに『全事件簿』とあるように、『金田一少年の事件簿』の14年の軌跡を振り返るとともに、それをふまえつつ、「現在の『金田一』」をあぶり出すことを眼目とした本です。当然ながら、作者である天樹征丸・さとうふみや両氏、および「週刊少年マガジン」編集部には多大なご協力をいただきました。

 天樹征丸氏が、「『金田一少年』はライフワークだ」と語ってくれたときは嬉しかったなあ。インタビュアー冥利に尽きる発言でした。

 興味のある方はぜひ、手にとってみてください。

 読者の方の率直なご意見も楽しみにしています。
 本ブログへのコメント、もしくは下記へのメールをお待ちしております。
musikus@ganbo.net
brown2 3月4日、東京国際フォーラム。
 私は、生ける伝説を見た。

ジェームス・ブラウンこそは、まごうことなきホンモノの「生ける伝説」である。

 彼のコンサートを見よう、と思ったのには、ハッキリしたきっかけがある。

 2004年末、JBがガンだ、というニュースが報じられた。
 そのときに感じた喪失感と後悔は、決して小さなものではなかった。そのあたりの私の感情は、当時ここに記してもいる。

 だからこそ、今度来日したときには、絶対に見に行こうと思っていたのだ。

 JBは当時、「人生で多くのことを克服してきた。ガンも同様に乗り越えて見せる」と語っていた。そして、彼はその言葉どおり、みごとガンを乗り越え、ふたたびステージに返り咲いてみせたのである。

 たいした精神力だと思う。
 だが、今にして思えば、私は彼の精神力をナメていたのだ。
 なにしろ私は、彼のパフォーマンスに、まったく期待を抱いていなかったのだから。

 ジェームス・ブラウンは1933年生まれ(1928年説もあり)。若く見積もっても、今年で73歳になる。
 まごうことなき老人である。しかも、1年前にガンの手術をしたばかり。つまり、病み上がりなのだ。

 73歳、病み上がりの老人に、まともなパフォーマンスができるとは思えなかった。「熱唱」したり「絶叫」したりしなければ歌いこなせないJBのレパートリーは、73歳病み上がりにはどう考えたって荷が重い。
 だから、できるかぎり暖かい目で見てあげよう、と思っていた。たとえJBの声が出なくても、歌えなくても、ショーがしょぼくても、文句は言うまい。そう思っていた。

 だが、コンサートは予想に反して、すさまじいものだった。
 私がこれまでに見たライヴの中でも、まちがいなくベスト3に入るだろう。


        *

 開演時間が来ると、天井からミラーボール(!)がぶら下がってるだけの簡素なステージに、バック・バンドのメンバーがぞろぞろと現れた。

 ギター3台、ドラム2台、ホーン4本、それにベースとパーカッションが1名ずつ。総勢11人のビッグ・バンドである。

 バンドの演奏がはじまると、MC(これはラッパーではない。語源どおりの「司会」である)が出てきて、前口上をぶつ。

「さあ、スター・タイムのはじまりだ! ソウル・ダイナマイト、ジェームス・ブラウンのショー! 演奏される曲は、『トライ・ミー』『マンズ・マンズ・ワールド』『リヴィング・イン・アメリカ』そして『セックス・マシーン』だ! みんな、用意はいいか?」

 おお、あのジェームス・ブラウンのライヴ盤で演じられた前フリとまったく同じだ! しかも、総勢11人のバンドのグルーヴは最高である。思わず「カッコいい!!」と口走ってしまった。

 じつはこれも、心配してたのである。
 ここんとこのジェームス・ブラウンのアルバムは、打ち込みがメインだった。ライヴでも、つまんない打ち込みばっかり延々と聴かされたらたまらない、と思っていたのだ。
 私の心配は、御大が登場する前に霧消したのである。

 やがて、MCの絶叫に導かれ、スター・タイムの主役がステージに現れた。

 スターは、スターの格好をしてるもんである。金色に輝く肩飾りがついた、すごい形のジャケットを着ている。勲章でもつけられそうな服だ。しかも、色はショッキング・ピンクである。

 73歳病み上がりの老人が、ピンクの服を着ている! そう思ったとたん、曲はあの「メイク・イット・ファンキー」に移った。
 JBがマイク・アクションをキメる。会場は大盛り上がりである。なにしろ、ちゃんとカッコいいんだから! 73歳病み上がりの老人のアクションがカッコいいのは、驚異と呼ぶべきことだろう。

 そこからたっぷり2時間。
 JBとそのバック・バンドは、一度も演奏をやめなかった。曲間も、ほとんどないに等しい。しかも、決して観客を飽きさせなかった。
 すさまじく歌のうまい4人組女性コーラス隊が出てくるわ、上半身ビキニでパツキンの2人組ダンサーが出てきてクネクネ踊るわ、バンド各人のソロ・タイムはあるわ、バンド・メンバーとJBの寸劇はあるわ、とにかくめぐるましく舞台が動く。退屈することがない。徹底して楽しませてくれる。

 繰り返すが、ステージのギミックはミラーボール「だけ」である。どこまでも生身の人間を使ったエンターテインメントなのだ。これだけ舞台が動いても、各人の動きにはムダがなく、厳しすぎるほど緻密に計算されている。

 その計算をおこなった人物は誰か、といえば、まちがいなくピンクの衣装を着た73歳、病み上がりの老人、ジェームス・ブラウンだ。そのことも、痛いほど伝わってきた。

 バックのメンバーは、終始JBから目をそらさない。JBが指先でサインを出したら、しかるべき演奏なり、アクションなりを、こなさなければならないからだ。大所帯のバンドも、コーラス隊も、ダンサーも、煎じ詰めればJBの命令あって動く機械であり、JBの手足なのである。

 すげえ、と思った。
 73歳病み上がりの老人が、これだけのパッケージ・ショーを、完全にコントロールしている。

 JBはまるで衰えちゃいないんだ、と思った。

        *

 ジェームス・ブラウンは、バンドに関して、いろいろ逸話の多い人である。

 ライヴの終演後にはかならず反省会があって、ステージでミスをした人間には、罰金が課せられている。
 待遇改善と賃上げを願ってバンド・メンバーがストを起こすしたら、メンバーをその場で全員クビにして、新しいメンバーを揃える(この「新しいメンバー」が天才ベーシスト、ブーツィー・コリンズを擁するJBズである)。

 人を人とも思わぬサディスティックなバンド管理だ。

 だが、バンドを文字どおり自分の手足として使う、という発想なくして、ファンクなんて型破りな音楽は生まれなかったのだ。そのことが、よくわかった。

 JBは今でも、ファンク発明の母となった徹底したバンド管理を、変わらずおこなっている。

 JB・イズ・スティル・リビング。伝説のJBは生きているのだ。

        *

 ああ、JBは死んでないんだ、と思った瞬間はもう一度あった。

 ミラーボールがキラキラと輝く中、JBは大バラード「マンズ・マンズ・ワールド」を歌い上げた。

 曲の中盤、JBはステージのそでから、黒い服を着た日本人女性を呼び寄せる。なんのことはない、翻訳者である。

 JBは翻訳者を通じて、次のように呼びかけた。

「今、この時間にも、戦争でたくさんの命が失われています。今、私たちに必要なことは、『愛する』ということです。さあ、あなたの右隣の人に『愛してます』と伝えてください。それが終わったら、左隣の人に、『愛してます』と伝えてください」

 外タレ・コンサートで、ステージに翻訳者が出てきたのは、はじめて見た。
 しかも、それがこういうベタベタのメッセージだったのにも、驚いた。

 ピンクのジャケットを着た、ソウルのゴッドファーザーは、平和を訴えたかったのだ。たぶん、本気で。
 本気じゃなければ、翻訳者を呼び寄せるなんて、ショーの流れを害するようなことをするはずがない。

 ああ、JBだなあ、と思った。

 あまり語られないことだけれど、JBはメッセージ・メイカーであり、アフロ・アメリカンのオピニオン・リーダーだった人なのである。
 有名なヒット曲「Say It Loud, I'm Black And I'm Proud/誇りを持って『俺は黒人だ!』と叫べ!」をはじめとして、彼のメッセージは、多くの黒人聴衆を鼓舞してきた。「Payback」「Hell」「Reality」など、メッセージ色の濃いアルバムにも、名作は多い。

 目の前にいるのは、たしかに、あのJBなのだ。
 変わってないのである。JBは、メッセージ・メイカーだった60年代・70年代から、変わらずJBであり続けていたのだ。

 むろん私は、JBの呼びかけに答えましたよ。
 両隣の人に、「愛してます」って言いました。平和のために!
 ちょっと恥ずかしかったけどさ。


       *

 JBはあまり歌わなかった。
 すくなくとも、昔のライヴ・アルバムで聴けたような歌いっぱなし・叫びっぱなしではなかった。

 コーラス隊やらMCやらにマイクを渡して、JB自身はオルガンでイカすフレーズを弾く。そんな瞬間が多かった。
 たぶん、長く歌い続けることができないのだろう。

 だが、歌い続けないからこそ、歌ったときの迫力は、とんでもないものがある。
 同行した先輩は、JBの声の説得力に、「バケモノだ」とつぶやいていた。
 決して誇張ではない。

 ジェームス・ブラウン。伝説は、生きている。

 3月4日、東京国際フォーラム。私は、生ける伝説を見た。
(日付が変わっちゃったけど)今日はちょっと、凄い日だった。
 まるでここんとこの天気みたいに、ころころ気分が変わった。

 そんな日はそうそうない。

 たぶん10年後、私が2006年という年を思い返すとき、今日はとても印象深い日として記憶されるだろう。

 親友の写真家の個展に出かけてきた。


 やつは、開口一番、俺に苦言を呈した。

 正直言って腹が立った。

 すさまじく気分が悪かった。落ち込んだ。

 なにもさ、そんなクソミソに言わなくたっていいじゃないの。
 おまえがその気なら、俺だっておまえに言いたいことはたくさんあるよ。
 おまえね、それを言わないのは俺の優しさだよ。

 俺がキレやすい性質だったら、とうに殺しているだろう。
 悪いけど俺はね、小狡い知恵だけは回るから、完全犯罪で殺すよ。

 苦しい中でのジョークではあるけれど、そこまで思った。

        *

 その足で、ソウルの帝王、ジェームス・ブラウンのコンサートを見に行った。
 私の尊敬する編集者と一緒である。ここでは仮に、「兄貴」と呼ばせてもらおう。

 JBは素晴らしかった。
 詳細レビューは後日に譲るけど、私が見たコンサートの中で、ベスト3に入る凄いものだった。

 その後、ビイルをかっくらいつつ、兄貴とJBの素晴らしさについて語った。
 俺たち、JBに比べたらまだまだヒヨッコだよな、で同意した。

 気分が良かった。

 気分が良くなって思い直した。

 苦言を呈してくれるから、親友なんだよな。

 黙ってちゃいけない、と思った。

 やつに感謝しつつ、やつに苦言を呈するメールを書くことにした。
 昨年10月に開始して、開始すると同時に忙しくなり、ほっぽりなげていた名盤紹介ブログ「In A Sentimental Mood」。
 漸く再始動にいたしました。
 今後はちょっと、宣伝もしてみようかな、なんて思っています。

 とりあえず、更新しましたのでお知らせまで。

http://musikus.blogspot.com/